医学生・研修医の皆様へ
To medical students and residents

放射線科医の一日

伊藤 秀一 先生

私は京大病院で2年間の初期研修ののち、北野病院で3年間、今の施設に来て半年が経過した放射線診断科4年目の医師です。放射線診断の中では神経放射線診断が好きです。以下、最近の1週間の概要を記します。特にイベントがない限り読影しています。 月曜日。朝は大抵、救急外来で土日に撮影されたCTとMRIが100件ほど 読影リストに溜まっていて総出で所見をつけます。この時間はなかなかしんどいですが、中には珍しい症例が混じっていて、ずっと会いたかった疾患に出会えることもあり、しんどさの中に楽しさがあります。お昼になると読影室から出て遠くの景色を見ながら食堂で食事をするのが好きです。午後は放射線診断科のカンファレンスがあり、教育的または興味深い症例を持ち寄って共有します。知識の整理や自分の読影を見直す良い機会で好きな時間のひとつです。緊急アンギオ(カテーテルを使った血管内からの止血術など)や CTガイド下ドレナージ、PICC挿入依頼などがなければ、カンファレンス後も読影し19時までには帰宅することが多いです。 火曜日。午前はMRI当番です。診療放射線技師さんたちと確認しながら、とっておき症例のMRI撮像プロトコルを入れることもあります。最近は頭蓋頸椎移行部硬膜動静瘻と思しき症例のプロトコルを考えて張り切っていたのですが、モーション・アーチファクトで画像がブレて、ちょっとがっかり、なんていうこともありました。画像が綺麗に撮れてバシッと診断できると技師さんも我々も誇らしく、臨床の先生にも喜ばれます。 水曜日。第2・4週は朝8時から脳神経内科とのカンファレンスがあり、私は書記をしています。臨床の思考や見立てを直接聞くことができ、得られるものが多い時間です。また海のものとも、山のものともわからない難症例に対して、部長が理路整然と答えられている姿は放射線科医としての憧れです。勉強会で聞いたホットな疾患や所見が出てくることが多いのもこの時間で、最近は神経核内封入体病のparavermal areaの異常信号 (参考:Sugiyama et al. 2017. AJNR Am J Neuroradiol.) を拝見できて大変興味深いものでした。 木曜日。午前に小児放射線診断専門の先生が来られて、小児科とのカンファレンスがあります。読影をしながら、これは!と思った症例はメモします。午後は月曜日と同様に放射線診断科のカンファレンスです。午後5時半からは京大病院の神経放射線グループと合同webカンファレンスがあり、最先端の撮像法で得られた美しい脳や脊髄の珍しい画像を眺められるのは眼福です。 金曜日。予定アンギオがなければ、この日も読影からスタートです。午前は核医学専門の先生が来られて、1週間分のFDG-PETを振り返るカンファレンスがあります。午後は週末を前に緊急CTガイド下ドレナージの依頼があり、午後4時頃から手技を始めることが多いです。上級医の見守りのもと2学年下の専攻医の先生に丁寧に教えてもらいながら進めます。この施設に来てから新しく経験する手技も多く、まだまだレベルアップできることがありそうです。 土曜日と日曜日。平日のほか、月に約1回土日のon call対応があります。外線PHSを持ち帰って普段通り生活するのですが、緊張してしまってなんだか眠りが浅い気もします。時折、PHSに電話がかかってきて上級医と一緒に緊急アンギオに入ります。大抵は緊急止血です。緊急アンギオはなかなか慣れませんが、毎回上級医の頼もしさを感じています。 こんな感じで1週間いろいろありますが、日中に集中して仕事をし、夜や休日は自由な時間が取れるのは放射線診断科の良さのひとつだと実感しています。今はより素早く、より正確に、本質をえぐり出す、より質の高い仕事ができるように日々努力しているつもりです。どれだけ学んでもさらに先に深みがあり常に見果てぬ夢を追いかけている気分ですが、読影レポートに記載した内容が最終診断に結びついたときや 的確な記載を臨床医から感謝されたときなどはほかに替え難い悦びがあります。 この文章をご覧になっているみなさんの将来の参考に少しでもなれば嬉しいです。 ご一読いただきありがとうございました。

安村(影林) 純佳 先生

放射線診断科になって3年目、まだまだ分からないことだらけの毎日で、少しでも患者さん、他科の先生そして放射線科上級医の 役に立ちたいという心構えで日々を過ごしています。 朝は7時前に病院に着くように家を出ます。時間外に緊急で撮像されたCTやMRIは有所見のことが多く、放射線科医かけだしの私にとって重要な教材です。通常業務が始まるまでに1件でも多くの症例に触れられるよう、朝ごはんを食べながら読影します。 8時半になると業務が始まります。大きくCT・MRI当番、IVR当番に分かれて仕事を行い、日によっては他科とのカンファレンスに参加します。現在勤務している病院では毎日200~250件の画像が撮像され、業務開始後は絶え間なく画像が飛んできます。私は未熟なので、読影速度は遅くとも なるべく見落とさないようにと注意しているつもりです。難しい症例に出会った時は教科書や論文を引っ張り、頭をひねりながら自分の言葉でレポートを綴ります。ですが上級医から訂正していただくことも多く、それもまた非常に勉強になります。日々丁寧に添削してくださる先生方には頭が上がりません。優しい先生が多く本当に恵まれた環境です。 IVR当番の日は予定された血管内治療や経皮的腫瘍生検などを行います。患者さんに触れ治療に直接関わることができるので、手技中はもちろん楽しいですが、事前に撮られた画像を見て治療の順序を組み立てたり 腫瘍の組織を予想したりといった事前準備の時間も楽しいものです。(実際に指導医の元で手技を行うと自分の想定外のことが起こり、知識不足を痛感することが多いですが・・・。) 腫瘍塞栓や大動脈治療などではフォローの検査で手技がうまくいったことを確認し、生検の場合は病理結果を見て治療方針に寄与できたことを確認します。そこでやっと安心すると同時に、役に立てたかもしれないと嬉しい気持ちになります。 また平日・夜間・休日いずれでも、止血術や膿瘍ドレナージなどがしばしば緊急で依頼されます。特に止血術では予定検査と違って 患者さんの全身状態が悪く一分一秒を争うこともあります。緊張する場面ではありますが、自分の携わった処置で患者さんのバイタルが安定する瞬間をみると、何とも言えない充足感を得られます。 緊急検査がたてこまなければ、17~18時頃には所見もIVRの手技もおおむね片付きます。業務時間終了後は、興味深い症例のチェックや、自分が読影した症例の経過確認などをして過ごします。一通りチェックが終われば帰路につき、19時には家に帰っていることが多いです。家ではなるべく教科書や雑誌、論文を読んで少しずつ知識を蓄えますが、息抜きも必要なので休日は映画を見たりしてのんびり過ごします。オンオフが明確なのは放射線科のとてもよいところだと思っています。 放射線診断科は少し華やかさに欠ける診療科ではありますが、臨床医のよき相談相手となり診療を陰から支える縁の下の力持ちで、時にはIVRで救命の第一線に立つこともあります。ほぼ全診療科の検査を読影し、エコーや透視を利用した幅広い手技も行うので、どれだけ勉強してもしすぎることはなく、求めれば求めるだけ知識は手に入る、そんな奥の深い診療科です。きっと多くの人が考えているよりもカッコいい仕事だと思います。興味があればぜひ覗きに来てください。

片岡 正子 先生

朝は5時には起きて、勉強や論文・原稿書きからスタートします。3歳の息子が起きてくる7時までが自分の時間。7時からばたばたと朝食、支度をして保育園に送りとどけ、8時半までには業務の場所にいられるよう自転車を走らせます。 現在の業務は主にCT、MRI診断。CTは分野を問わずいろいろな部位の検査がどんどん進められていきます。担当の技師さん、研修医、大学院生との共同作業なので、まずは撮影現場の方々にあいさつをすませ、昨晩からの未所見画像をチェックしているうちに、どんどん新しい画像が送られてきます。診断科にはローテートしてくる研修医の先生も多いので、書いてもらった仮所見をチェック・訂正するのも仕事の1つ。当初は画像を前に茫然としていた研修医の先生も2か月もするとそれなりの読影ができるようになるのは、指導する立場としても嬉しいものです。(2か月でやめちゃうのは、ほんと惜しいなあ。) 大学院の先生ともなると、分野によっては私よりも詳しかったりするので、逆に学ぶことも多々あります。 一息ついたと思ったら、緊急検査の所見についての問い合わせの電話。救急部や外科の先生方など、治療方針決定のために急いで読影が必要な場合、わざわざ先生方が出向いてきてくださることもあり、一緒にモニターをみながら原因を探ったりもします。何か役に立つ情報を提供できたときは診断医をやっていてよかったと思う瞬間です。 診断業務とならんで勉強になると感じるのは院内の各種カンファレンス。私は耳鼻科、乳腺外科の臨床のカンファレンスに参加しています。臨床側の観点や他の検査・手術所見を知り、レポートでは伝えきれない情報を話し合う貴重な機会です。加えて、乳腺外科・病理・放射線診断科で行っている症例検討会もあり、画像でみえたもの、みえなかったもの等フィードバックを行う場となっています。こうした臨床各科とのコミュニケションがあってこそ、診断医が成長できるのだと感じます。また、産婦人科画像の Research meeting にも出ています。こちらは診断科のスタッフ・大学院生がおこなっています。私は時間の関係で産婦人科の臨床カンファには出られないので、症例を学ぶには欠かせない時間ですし、臨床での問題点を研究につなげるアイデアを練る良い機会です。 これに、研究が加わるので、やることには事欠かないのですが、たいていあっという間に息子の夕方お迎え時間。心のなかで「お先にすみません」と言いながら6時50分にはか白衣を脱いで自転車で保育園にまっしぐら。家にかえって洗濯・夕食・風呂。夫が早く帰ってきたときなど余力があれば息子の遊びにつきあい、息子とともに10時には全員就寝。 手先があまり器用でなく手技習得に手間取り研修医時代に苦労した私にとっては、勉強することが診療の質の向上につながる放射線診断学は魅力的でした。産婦人科や乳腺外科といった分野は、研修医時代に一度は選択を考えたものの、上記の理由から断念したという経緯があり、画像診断という異なる形ではあれ興味のあった臨床科(しかも、複数)にかかわっていけるというのは、診断科の長所であり、やりがいだともいえます。 好きなだけ自分のために時間を使うことができた若い頃と比較すると、子育て中は仕事に費やす時間の減少は避けられません。それでも職場の皆や夫・両親などの家族など多くの人の協力に支えられながら 仕事を続けていくことができているのは恵まれていると感じます。子供の急な発熱・病気等で予定外に仕事を休まざるを得ないこともあります。職場の方に迷惑をかけるのは大変申し訳なく、それが続くと仕事を続ける意味について自問自答することも無きにしもあらずですが、大変ありがたいことに現在当科では、CT・MRI等の診断業務担当は優秀な医局長のおかげでシステマティックに管理され 代行の人を迅速に手配していただいているので仕事への影響も最小限でとどめられ、優しい職場の皆のサポートのもと子育て中の私でもめげることなく 大学病院の第一線で仕事を続けることができています。 忙しいとなかなか研究には十分な時間を割くことができませんが、画像診断研究の多くは、診断・診療の質の向上を目指すものなので、数年~10年後には自分の研究テーマが現場で使われるようになり、臨床他科の先生や患者さんにとって役に立つものにつながればいいなあと思います。 研究テーマの画像は大抵熱心にみることになるので、読影能力もアップするというオマケつき。くわえて、画像の研究だと結果が「目に見えて」わかるのが、私にとっては楽しく感じる点なのかもしれません。

梅岡 成章 先生

某月某日 とある放射線診断科医の日記より。 今日は朝から○○科とのカンファレンス。しかし、外科医の朝は早い。週一回6時半に家をでる生活も8年になるので慣れてはきたが、これが日常の外科医の先生には頭が下がる。そんな先生方に必要とされているわけだから、こちらも身が引き締まるってものだ。 7時半。カンファランスが始まる。ん、なに?他院から second opinion の謎の腎腫瘍?良性か悪性か、次の一手など根拠をつけて説明・解説してみる。患者さんの運命の分岐点なので、慎重に慎重にと・・。うん、上出来。カンファランスは興味深い症例に出会えるし、実際の臨床をそれとなく教えてもらえるし、自分の成長には欠かせない場所なのだ。 9時。 カンファレンスも終わり。今日の朝は超音波検査。CT, MRI も重要な画像診断ツールだけど、超音波は CT/MRI ではわからない情報を与えてくれる大事なツール。それぞれの長所をちゃんと押さえておくとカンファレンスなんかで説明の幅がひろが・・お。PHS が鳴ってる。「もしもし・・、前縦隔腫瘍? CT 見せてもらって、またお電話します。」 なになに、若いおにいちゃんのかなり大きな腫瘍だねえ。リンパ腫か、胚細胞腫瘍か、胸腺由来の腫瘍かってところかな。均一なところを見ると、胚細胞腫瘍の可能性は低いかな。針を刺すルートはありそうだし、血管は近くにないし・・よし、電話だ。「もしもし、前縦隔腫瘍ですが、超音波ガイド下で生検可能かと思います。 ◎曜日のお昼休みに病棟にお伺いしますので、よろしくお願いします。」 最小の侵襲性で、診断をつけてあげられると患者さんからも臨床の先生からも喜ばれるやりがいのある大事な手技。 13時。 午後は CT 当番。毎日大量の CT がやってくる。CT や MRI の画像をじっと見てみると、その人の既往や人生そのものがカルテを見なくても見えるときがある。なかなか趣き深い、深遠な作業だ。 さて、最初の患者さん。ん?おなかに大量の出血があるじゃないか?カルテ・カルテ・・。貧血も進行しているねえ。あら、肝腫瘤から造影剤が漏れてるわ。さ、主治医の先生に電話。「肝腫瘍破裂してますよぉ。・・・・・ん、緊急 IVR で止めてほしい?」 30分後。 血管造影室。今日は IVR 当番だったので、血管造影で止血にかかる。右鼠径部から細い管を動脈に入れて・・肝動脈にまですすめて・・造影!ああ、血管破れてるねえ。では、破れているところまで管をすすめてと、止血剤を動注。止血後の造影で漏れないことを確認して、終了!。お、血圧が回復してる。いい仕事したなあ。今日のビールは間違いなくおいしいぞ。 17時。 ××科とのカンファランス。また、おもしろい症例を供覧できる。先週の手術の結果・・・術前診断と大きくは外れてないな、よしよし。 18時。 日中は忙しくても、比較的夜は時間があるのは放射線診断科の大きな特徴。今日は、来月の学会発表の準備。国内・国外を問わず・・新しい知見を吸収して、日常診療に応用・還元することで、臨床の先生方との良好な信頼関係を築けるので、忙しくてもこれはと思う学会には演題を entry する。頻度は人それぞれだけど、これは医者でありつづける限り royal duty だと思う。 放射線診断医は Doctor’s doctor という言葉で形容されることがあります。放射線科医は臨床医にとってよき相談相手であり、パートナーでなくてはなりません。そのために放射線科医は様々な modality (CT/MRI/超音波/核医/IVR) の特性と画像所見を理解し、臨床も学ばなくてはなりません。はっきり言って地味な仕事/勉強は多いです。ただ、「いい病院には、優秀な放射線科医/病理医が必ずいる」というのが私の持論で、不可欠な診療科であり、やりがいのある仕事だと思います。各診療科の世界では神と呼ばれるようなご高名な先生とも、カンファレンスや学会・研究会では卒後早い段階から対等に discussion できます。現在、医療も多様化がすすみ、画像診断に特化した医者のニーズも高まっています。一風変わった診療科ですが、一度のぞいてみませんか?