最近UF-DCE MRIの撮像について問い合わせもいただきます。一般的なお話は下記にもある通りこちらにまとめております(Kataoka M et al. MRMS 2022 : https://doi.org/10.2463/mrms.rev.2021-0157, Kataoka M et al. JMRI 2024: https://doi.org/10.1002/jmri.29082)装置によって可能な・最適な撮像プロトコールも違うとおもわれますので、プロトコールを参考にしつつもぜひ、各病院でパラメーター調整をしてみてください。
造影ダイナミックMRIの時間短縮版で、画質を保ちつつも造影直後に数秒ごとの高速撮像が可能となり、病変の血流に基づく新たな評価法として注目されています。高速撮像法での血流情報のパラメーターにはいくつかあり、代表的なものはMaximum Slope(MS), Time to enhance 等があり、従来の造影ダイナミックMRIから得られるパラメーターと診断能は変わりません。臨床でも活用されその診断や治療効果、予後との関連、腫瘍血管の評価など新たな知見が明らかになりつつあり、それらの所見の評価や形状の自動抽出・定量化などにとりくんでいます(図3、動画1)。高速撮像法のパラメーターに後述するDWIの情報を合わせることでさらに診断能が改善します(Ohashi A et al. EJR 2019, Ohashi A et al. MRI 2020)
若年女性では、生理的な背景乳腺の造影効果により病変の検出が難しいことがあります。高速撮像法で早い時相の乳房MRI撮像を行うと、背景乳腺の造影効果が目立たず病変の良好な描出を得られることがあり、特に若年層の多い当院では実臨床でも活用しています。(Honda M et al. JMRI 2019, Honda M et al. EJR 2020, Kataoka M et al. MRMS 2022 : https://doi.org/10.2463/mrms.rev.2021-0157)。この高速撮像法は、技術的には複数の撮像法が用いられており(詳細は Kataoka M et al. JMRI 2024: https://doi.org/10.1002/jmri.29082)、当院では長らく圧縮センシングを用いた撮像法を用いてきましたが、一般的にはTWIST、DISCOなどView sharing の手法も広く用いられており、最近ではGRASPなど新しい撮像法も登場、最適化を検討中です。また、この手法では腫瘍周囲の発達した血管が明瞭に示されることを我々は早期に報告しましたが(Onishi N et al. JMRI 2017)こうした血管の定量化への試みも今後発展が期待される領域です(Hashimoto H et al. JJMRM 2023 https://doi.org/10.2463/jjmrm.2022-1784)
拡散強調画像(DWI)の乳腺腫瘍診断への応用
乳房MRIにおける拡散強調画像は、ここ10年で最も進歩した撮像技術の一つです。診断の一助としての役割はもちろん、造影MRIとは別の視点から腫瘍の病態をとらえることができ、今や乳房MRI診断において欠かせない画像となっています。当科では早い時期から拡散強調画像の有用性につき多方面から検討を重ね、臨床での診断にも拡散強調画像を取り入れて活用しています。
Advanced DWI:臨床で用いるADCのみならず、DWIから組織の拡散と灌流の両方を評価可能なIVIMや非ガウス拡散など、新たな定量値を算出することが可能です。また、ADCを始めとするDWI定量値は拡散時間の影響を受けることがわかってきました。臨床MRI装置を用いて異なる拡散時間でのDWI撮影が可能となり、生体組織内の微細構造を定量化するためのアプローチになりえます。
また、最適な(拡散強調の度合いを表す) b値を検討したり、多くの b値を用いて、新たな乳腺腫瘍診断法の開発を行っています。
(Iima M et al. Radiology 2017, Iima M et al. Investigative Radiology 2021)
高解像度 DWI:RESOLVE(Read-out segmented echo planar imaging)という新しい撮像法を用いて、高解像度DWIを実現し、臨床にも応用しています。高解像度ダイナミックMRIにも近い解像度でゆがみも少ないため、乳癌病変の分布・進展範囲については副病変もふくめて造影検査に匹敵する評価が可能です。病理組織との詳細な検討も行い、腫瘤性病変の評価に関しては病理での広がりとの対応が良好との結果を得ています。(Ohno et al. MRI 2020, Ohno et al. MRMS 2020 https://doi.org/10.2463/mrms.mp.2020-0021)(図4)
薬物治療効果の評価と MRI
乳癌の治療法の一つとして術前薬物療法を行います。その治療効果判定には乳腺ダイナミック造影MRIを用いていますが、予後予測の可能性や、DWI等のほかの画像を用いることで診断能を高めつつより迅速かつ低侵襲に評価をできないか検討しています。非侵襲的な治療法の進歩に伴い、術前にどこまで正確に残存病変を評価できるのか、また、治療と関連するともいわれる腫瘍の不均一性を画像からアプローチできないか検討しています。(Ota R et al. EJR 2022)
Category 4 subcategory
乳房MRIの診断レポートには、病変の悪性可能性を反映したBI-RADSカテゴリーを記載することが推奨されています。生検の適応とされるカテゴリー4には2〜95%と広い範囲の悪性可能性が含まれているため、当院を含め複数の施設で細分化が試みられています。カテゴリー4の細分化の適切な基準作成や、その一般化に向けての検討を進めています。本田茉也先生(現 関西電力病院放射線科)の論文(令和3年度のJJR最優秀論文賞)をご参照ください。(Honda M et al. JJR 2021 http://hdl.handle.net/2433/269489)
Dense Breastの多い若年女性の乳房の診断として、重なりの影響を減らすことができるTomosynthesisも期待されます。MRIは詳細な病変の評価が可能ですが、石灰化の評価は難しく、リスクの高くない人にとっては負担の面が懸念です。当院では日本人のデータを用いてこの両者のモダリティの比較検討を行っています。(Förnvik D et al. European Radiology 2018)
乳癌に関連した核医学画像についての研究
乳房専用PET装置(Dedicated breast PET:dbPET)については、当科の核医学グループ、当院乳腺外科、先制医療・生活習慣病研究センターと共同で連携を取りながら臨床及び研究に携わっています。糖代謝の画像化と高空間分解能による詳細な形態を両立させたdbPET装置は、先制医療・生活習慣病研究センターでは検診の一環として用いられ、診断能の検証やMRIを含めた精査画像・病理結果との比較、所見の標準化や画質改善が試みられています。最近本院にも装置が導入され、より治療と深く結びついたdbPETの有用性を探索中です。(Sakaguchi R et al. ANM 2019)
また、進行乳癌においては全身の転移の評価においてPET/CTをはじめとした各種画像の有用性が示されていますが、治療計画を立てるにあたり生検の困難な病変の評価には新しい核種などが期待されており、これらについても核医学グループ・乳腺外科と共同で検討をすすめています。上記Tomosynthesis、MRIから得られる情報と核医学からの情報を、Fusion 画像作成等によりMultiparametricに検討することで、癌の進展範囲や治療効果・予後予測の精度向上を目指しています。
その他の画像モダリティの研究
他にも臨床各科・企業との研究として詳細な血流をとらえることができる光超音波というモダリティについて約10年にわたり開発から携わっており、乳癌においては乳腺腫瘍周囲の血管網の描出や、再建術における微小な血管の評価への応用等に携わっています。
その他、ここに書ききれなかったもの、計画進行中のもの(非公開)もあります。治療の選択肢の広がりに伴い、非侵襲的に病変を評価できる画像の役割はどんどん進化しています。発展する Oncology の一翼を担う Breast Imaging に関心のある方、お待ちしています。