医学生・研修医の皆様へ
To medical students and residents

留学者の声

森 暢幸 先生

2009年10月から2010年9月までの一年間、フランスのボルドー第二大学 (Laboratory Neuroinflammation, imagerie et therapie de la Sclerose en Plaques-Equipe associee) に留学しました。妻と長女(当時二歳)と長男(当時三ヶ月)をつれて家族四人での海外生活でした。

カンコンス広場にて牛と酌み交わす

ボルドーはフランス共和国の第7番目の都市で、フランス南西部に位置するアキテーヌ県の県都です。言うまでもなくボルドーはワインが基幹産業で、特に五大シャトーは最高級ワインを毎年生産し続けていますし、現地では他にも多種多様の美味しいワインがお手頃価格で手に入ります。近郊には鴨肉やフォアグラ、トリュフ、牡蠣といった食材を生産する地域が点在し、それを市内のマーケットで比較的安価に手に入れることができます。また、街が擁する美しい歴史的建造物のみならず、路面電車などその近代都市施設との調和も含めたボルドー市全体が UNESCOの世界遺産に登録されており、ヨーロッパ圏内を初めとして世界中から数多くの観光客が集まります。実際渡仏中、フランス国内の有名都市を訪れましたが、ボルドーが最も美しかった様に記憶しています。

さて、ラボでは主にラットを用いた動物実験に従事しました。タスクにもよりますが、冬場だとまだ暗い朝8時から実験を開始し、多い日で5匹の定位脳手術を行いました。当時はあいにく技術者の異動時期と重なり、病理切片の切り出しや免疫染色・画像解析、RNA解析などステップの多くを自分で行う必要があり、慣れない作業で嫌気が差すことも多かったのですが、逆にこの気の遠くなる作業を通じて得た知識や学んだ教訓が一番貴重だったと今は思います。優秀かつ気さくな同僚達や友人達にも支えられ、何とか一年間継続できたと思い、改めて感謝しています。

ボルドー大学放射線科
Dousset教授のお部屋にて

留学中は育児にも多くの時間を費やしました。母国であっても大変な育児を公的支援が不十分な他国で行うのはなおさら困難なのですが、さらにフランスではほとんどの手続が電話での Rendez-vous(RDV≒予約)を前提とするため 一定以上のフランス語レベルが要求され、もどかしさは一入でした。下の子は生後三ヶ月・ワクチン未接種での渡仏でしたので、6種混合ワクチンを薬局で事前に買い(これ自体ひと仕事)、RDV 後に小児科に持参、ようやく接種という具合です。また、子供が気管支炎の時に受けた、フランス語圏では一般的なKine (≒理学療法:自力で喀痰困難な小児の介助らしいが、これはもう児童虐待にしか見えない!)など、育児関連で思い出されることも多くあります。

最後に、一年の留学期間は立ち上げや撤収に要する時間も勘案すると非常に短く、特に動物実験に取り組むなら、また家族とゆったりと過ごす前提なら、最低でも2~3年費やすべきだったかとも反省しますが、色々欲張って非常に凝縮した一年を経験できたのだとも考えます。帰国後、現在天理よろづ相談所で勤務しております。臨床の現場では留学中の経験が直接生かされる場面には今のところ遭遇していませんが、かの一年を通じて実感した「なせばなる」という精神は失わずにいたいと思っています。