留学者の声
渡部 正雄 先生
私は、2022 年4月から2024年3月までの2年間をHumboldt財団postdoctoral fellowとして、ドイツNRW州にあるEssen大学のDivision of Nuclear Medicineへの研究留学の機会をいただきました。Essen大学は主任教授のProf. Ken Herrmann、副所長のProf Wolfgang P Fendlerの研究室にお世話になりました。Prof HerrmannはLancet OncologyなどにRadiotheranosticの総説を書かれたこともある(Lancet Oncol. 2020;21:e146-156; Nat Rev Clin Oncol. 2022;19:534-550)、腫瘍核医学ではご高名で新進気鋭の先生です。Essen大学では核医学診療棟が日本円で200億円以上かけて近い将来開設される予定です。私はHerrmann教授の研究室で、1) Fibroblast activation protein inhibitor (FAPI)のPET/CTを用いた診断性能の研究や予後予測の研究、2) 90Y FAPI PET/CTを行いたDosimetryの研究、さらに2) 90Y glass microspheresを用いた肝細胞癌治療時のLiver toxicityの研究や、同製剤を用いた神経内分泌腫瘍の肝転移治療の治療効果や予後予測の研究を行いました。この中から3本の研究論文はすでにジャーナルで採択され、さらに2本の論文も執筆済みで、そのうち1本は既に投稿中で、最後の1本も近日中に投稿できるかと思われます。
ドイツ社会は移民にも寛容で、研究室も多民族国家の縮図のようでした。職場は英語でのコミュニケーションが可能でしたが、研究で用いる電子カルテもコンピュータもすべてドイツ語仕様で、とても苦労しました。ドイツ鉄道や銀行、スーパーマーケットでもドイツ語が話せないと、「ドイツに居るのにドイツ語が話せないのはおかしい。早くマスターしてドイツ社会に溶け込むべきではないのか」という態度で接してこられる方も大学外では少なからずおられました。この点に関しては、Humboldt財団からドイツ語のレッスン料の支給があり非常に助かりました。私は妻と3人の子供達を日本に残しての単身留学でしたが、家族を連れてこられた研究者にはHumboldt財団から通常の支給額に上乗せして、家族手当と配偶者のドイツ語レッスン料も支給されるそうです。
英語も他の同僚に比べるとさほど上手でもなく研究を進めていくのはストレスを伴いましたが、留学当初からラボの上司や同僚が公私ともに手厚いサポートをしてくださいました。これもひとえに当科の中本教授とProf Herrmannの信頼関係の賜物であると大変感謝しております。
ドイツ人は英語の運用能力が非常に高く、リサーチマインドも非常に優れています。Essenに来てすぐに指導教官のDr Manuel Weberが研究の臨床データ採取の見本を見せてくれましたが、3倍速録画を見ているような感じで言葉を失ったのを記憶しています。論文執筆のチェックも非常に早く、数時間後には原稿チェックが終わって指導教官から返送されることもありました。Essen大学に来て初回の研究面談で、Prof Herrmannから「1本目の論文はtoo easyだから3ヶ月で書いてほしい。それができてあなたが研究者としてEssen大学で上手くやっていけそうならば研究机を差し上げましょう。Dr Weber、それでいいかな?」とお話がありました。Dr Weberはその場で「Sure, of course !」と即答し、私は「本当にこの大学でやっていけるのか」と不安を感じた事を鮮明に記憶しています。結局、1本目の論文は書き上げるまでにEssenに来て4ヶ月半もかかってしまいました。しかし、Professor Herrmannからは「早かったね。では、机をあげよう」と言われ研究机とさらには研究用の個室を貸与されました。その論文はoriginal articleとしてJournal of Nuclear Medicine (IF 11)に採択されました。周りを見渡すと、他の同僚達はそのような研究ノルマを当たり前のようにこなしており、身が引き締まる思いで、平日は朝9時から夜12時まで研究し、土日も出勤して研究していました。
ただし、ドイツ人はon-offがしっかりしており、年間6週間の休暇はしっかり取得され、家族との時間もしっかり捻出されています。その時間管理能力は日本人研究者も学ぶべきだと感じました。ドイツ人の上司や同僚の方々は親しくなると非常に温かく受け入れてくださり、おかげさまで非常に有意義な留学生活を送ることができました。ドイツ国内は治安も良く、最低限気をつけて生活していれば身の危険を感じる事はほぼありませんでした。週末などに小旅行でパリやロンドン、チューリッヒに飛行機や新幹線を使ってすぐに出かけられますし、ドイツ国内にも非常に美しい建造物が多数あります。将来、家族連れでドイツにご留学される先生方におかれましても有意義な留学生活が送れるのではと思います。
最後になりましたが、この度の留学のためにご尽力いただいた富樫かおり前教授、中本裕士現教授、三宅可奈江先生、その他にも快く送り出してくださった京都大学放射線診断科の教室員の先生方に心より感謝申し上げます。